横浜地方裁判所 昭和63年(わ)1915号 判決 1989年7月03日
本籍
神奈川県厚木市妻田二二二〇番地
住居
同一九一七番地の二
会社役員
藤井章夫
大正一三年一〇月三日生
主文
被告人を懲役一年に処する。
この裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、昭和五九年一〇月一八日、養父・藤井隆次の死亡により同人の財産を妻・芳江と共同相続したものであるが、元・同和対策新風会理事、元・全日本同和会田辺支部顧問の経歴を持つ小畑一夫、同和対策新風会全国統括局総局長の中村完及び元・同和対策新風会委員長の谷篤と共謀の上、架空債務を計上して課税価格を減少させる方法により、自己の相続税を免れ、かつ、妻・芳江の代理人として同人の相続税を免れさせようと企て、同六〇年四月一五日、神奈川県厚木市水引一丁目一〇番七号所在の所轄厚木税務署において、同税務署長に対し、被相続人・藤井隆次の死亡により、同人の財産を相続した自己の正規の課税価格は二億三六八八万二〇〇〇円であり、妻・芳江の正規の課税価格は二億五五〇二万八〇〇〇円であるに拘わらず、被相続人・藤井隆次には坂本勝夫に対する借入金四億円とこれに対する未払利息二〇〇〇万円の合計四億二〇〇〇万円の債務があり、自己及び妻・芳江においてそれぞれ二億一〇〇〇万円宛の右債務を負担することとなったので、それぞれの取得価格からこれを控除すると、自己の課税価格は二七五四万一〇〇〇円、妻・芳江の課税価格は四五〇二万八〇〇〇円となり、これに対する自己の相続税額は三八六万二七〇〇円であり、妻・芳江の相続税額は六三二万七六〇〇円である旨の虚偽の相続税申告書を、妻・芳江の分については同人の代理人として、これを提出し、もって、不正の行為により、自己の正規の相続税額一億一四六九万九九〇〇円との差額一億一〇八三万七二〇〇円を免れ、かつ、妻・芳江をして同人の正規の相続税額一億二四二六万一五〇〇円との差額一億一七九三万三九〇〇円を免れさせたものである。
(証拠の標目)
一 被告人の検察官に対する供述調書(三通)
一 小畑一夫(三通)、中村完(三通)、谷篤(二通)、臼井一政、石射克之、藤井芳江(二通)、荻原育子、松本泰三、山本信行、上妻力夫、坂本勝夫、久米信男(三通)、白河浩、久保浦重紀の検察官に対する各供述調書
一 荻原育子の検察事務官に対する供述調書
一 大蔵事務官作成の告発書
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書
一 大蔵事務官作成の相続税額計算書
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書説明資料
一 大蔵事務官作成の借入金調査書
一 大蔵事務官作成の土地調査書
一 押収してある相続税の修正申告書控一通(昭和六三年押第五九七号の1)
(法令の適用)
判示行為
相続税法六八条一項、刑法六〇条、藤井芳江の相続税ほ脱分につき更に相続税法七一条一項
科刑上一罪の処理
右は一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから、刑法五四条一項前後、一〇条により一罪として犯情の重い被告人の相続税ほ脱分に対する罪の刑で処断
刑種の選択
懲役刑選択
刑の執行猶予
刑法二五条一項
(量刑の事情)
本件の犯情をみるに、本件は、被告人が元・同和対策新風会理事、元・全日本同和会田辺支部顧問の経歴を持つ小畑一夫、同和対策新風会全国統括局総局長の中村完及び元・同和対策新風会委員長の谷篤に対し、自己及び妻の相続税の脱税を依頼し、合計二億二八七七万一一〇〇円にのぼる多額の相続税をほ脱したもので、いわば本件犯行の発端は被告人が作り出したものであり、その刑責誠に重いものがある。しかしながら、本件犯行の巧妙、大胆かつ悪質な手段は、本件脱税を請け負った小畑一夫、中村完の両名が中心となって企画し、これを実行したものであり、また、ほ脱税額のうち、被告人において免脱による不正の利益を得た金額は、実質上約五〇〇〇万円に止まり、その余の約一億七八七七万円は他の共犯者らの利得するところとなったものである。而して、本件犯行後、被告人は修正申告による正規の相続税、重加算税、延滞金の全額を納付ずみであり、現在では反省の情顕著なものが窺えるので、その他諸般の情状を総合勘案の上、主文のとおりの刑を量定した次第である。
(検察官 野本昌城 出席)
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 石田實秀)